「珪くん!はやく〜こっちこっち!」
俺は、が駆け出した後姿を見送りながらゆっくりと境内を見回した
はばたき神社の夏祭り・・・
石畳の両側に・・・、温かい電球に照らされた笑顔が揺れる
シャカシャカと、手回しで氷を削る音
ラムネのビンにビー玉を落とす音
遠くで聞こえる射的の「パンッ」という音
そして・・・、おまえの下駄のカラコロという音
夏の音が・・・俺を包んでいる
「んっもうっ!珪くんおそーい」
そう言って・・は頬を膨らませて
また俺のほうへ駆け寄ってくる
浴衣の裾が・・・乱れるのも気にせずに・・・
まるで子供のようにはしゃいでいるが・・・可愛くて
俺は・・・思わず抱き寄せてキスしたい・・・
そんなことを考えたりする
でも・・・、の目的は・・・
果てしなく・・・まさに子供で
射的の横の・・輪投げのスペースまで俺の手を引いてゆく
「いい?見ててよ!あの貯金箱取ってやるんだから!」
そう言ったの視線の先には・・・
金色の髪をした・・・二頭身の「葉月珪貯金箱」がある
夕べ一足先に・・・女友達とここへ来たが見つけた「俺」
300円渡して、五つの輪を受けとったは・・・
いつに無く真剣な眼差しで・・・「俺」を見つめる
俺は・・・笑い出したいのを堪えながら・・・その様子を見守った
「えいやっ!」
掛け声も勇ましく・・・、五つの輪はの手を離れ
そして、いびつな放物線を描きながら・・・「俺」の近くに落下する
「あーー!!もう、取れない〜!」
大きな声で文句を言っているの手を引いて・・
俺は・・・輪投げの前から移動する
駄々をこねる子供のように・・ジタバタする
「全く・・・、おとなしくしろよ」
苦笑いする俺の手を・・・、ぎゅっとつねると
は・・・俺に
「アカンベー」をした
「だって、珪くんの貯金箱、超可愛いんだもん」
「おまえには・・本物がいるだろ?」
「こーんな可愛くない本物なんていらないよ〜〜だ!」
出店の明かりに照らされて・・・悪戯っぽい笑顔が俺を覗き込む
憎まれ口・・・言えるような・・
・・そんな仲になったんだ・・俺たち
「おまえがいらないって言うなら・・・俺もいらないって言うぞ」
俺は・・・、のおでこを指でつついた
は小さくウインクすると
・・・背伸びをして俺の耳元へ唇を寄せた
「珪くんなんて・・・・い〜〜らないっ」
そう言うと、クルリと身体を翻し・・・下駄を鳴らして駆け出した
そして、振り返り・・・俺に手招きをする
「珪くん!次は金魚すくい!行くよ〜!」
・・・・全く
こんな調子で・・・いつものペースで俺たちは過ごしている
それでも・・・そんな事態が・・・決して嫌なわけではない
いつでも・・・自分勝手で・・・自由奔放で
それでも・・・
は・・・精一杯、俺を愛してくれている・・・
俺にはそれが解かっているから
『いらない』そう言われるたびに・・・
愛してる・・・そう聞こえる俺・・・
なんか少し変・・・かもな
金魚の水槽の前で・・・真剣に一匹の金魚を見つめる
俺は・・・・その横にしゃがんで・・・
その髪をそっと撫ぜた
「金魚・・・取れたら・・・俺が飼ってやる・・・」
俺の言葉に大きく頷く
赤い金魚の後ろを・・・、白い円が追いかける
俺たちの顔が映った・・・水面が揺れる・・・
そんな・・・縁日の夜
END
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